不遇の時代乗り越えて…今岡も最高の瞬間迎えた

愛息・稜くん(4)と手をつないでロッカーから出て来た今岡が、そっと手を離して胴上げを待つベンチへ向かった。胸を張って、愛する家族がいる甲子園を回った。真っ赤な目から涙がほおを伝い、止まらなかった。

「言葉が出ないッスね…。優勝に貢献することは出来たと思う。でも自分の中ではまだ満足してないし、シリーズに向けて挑戦していきたい」

左肩痛は、優勝決定後に登録抹消されるほど悪い。それでも故障者続出の8月、体調不良をおして奮闘し続けた。チームの核が、7番だった。

「あのままあと2年あったら、俺の野球人生、終わってたかもね」

不遇の時代があった。集中を保つため感情を出さなかったことで、人格まで否定された。無気力、何を考えているかわからない−。「試合前、ベンチにいる人が全員敵に見えた」。心を許せるのは家族だけだった。

02年、春キャンプ前の訓示。『優勝する』という闘将の声が脳天を貫いた。「だってそんなの言われたことないし、考えたこともなかった。強くなってから言うのは誰でも簡単だけどね」

『闘志を内に秘めている』は自分への“言い訳”だった。漠然とした闘志に明確な意識と決意が注がれた時、腐りかけていた才能が開花した。

「出来る出来ないじゃない。やるんだってこと。人間っていうのは気持ちなんだよ。思うのは、いくらでも自由。何にも動じることなく、意志を貫き続ける。それが本当の強さなんだってね」。『強い男』を追い求め昨年の結果が今年は当たり前の基準に変わった。さらに上へ、上へ。

『前監督に認められなかった』。そんな言われ方は嫌う。監督に使おうと思わせるのが選手だから。あえて今と言い比べるなら、こう言う。

「この人のために打とうと、思えるかどうか」。終わっていたかもしれない野球人生が、今、最高の瞬間を迎えた。星野阪神と共に今岡はまた、強くなった。
 
SANSPO.com 2003/09/16