虎のニューリーダー吼える!:今岡 誠×濱中おさむ
【プロフィール】
いまおか・まこと 1974年9月11日生まれ。兵庫県出身。PL学園高から東洋大を経て、97年ドラフト1位で阪神入団。1年目から頭角を現し、翌年からレギュラー定着。2000年はシーズンの大半をファームで過ごすも、01年はまた1軍で、規定打席に到達。02年、1番打者としてブレークすると、打撃ベストテン5位に入るなど、自身、過去最高の数字を残した。首脳陣からの信頼も厚く、今季もセカンドのレギュラーはほぼ確実。

はまなか・おさむ 本名=濱中治 1978年7月9日生まれ。和歌山県出身。南部高から97年ドラフト3位で阪神入団。プロ5年目の01年、初めて1軍に定着。02年は田淵チーフ打撃コーチと二人三脚で「うねり打法」に挑戦。ケガによる戦線離脱で規定打席にこそ到達しなかったものの、一時は4番に座るなど、大器の片りんを見せつけた。金本の加入で外野手争いはし烈を極めるが、和製大砲の1番手として、一歩も譲るつもりはない。
(※以下の文章では今岡選手の発言部分を赤字、濱中選手の発言部分を青字で表示しています。)

 年齢は4つ違うが、2人は97年の同期入団。4年前から濱中の故郷・和歌山で一緒に自主トレを行う仲である。02年、「優勝」を目指すチームの中心に座った2人は、それぞれに評価されるだけの数字を残した。しかし、結果は4位、Bクラス。屈辱を晴らすには、「優勝」しかない。2人はいま、同じ目標に向かって走りだしている―。

 野球を離れても野球の話

―和歌山での自主トレも4年目になりますが、今年はどのようなテーマを持って臨んでいますか。

 1月は毎年、キャンプに向けてのコンディション作りを最大のテーマにしています。体だけじゃなくて、気持ちのほうもグッと盛り上がってくる時期なんでね。

 僕も全く同じです。


―内容的に何か変えたところは?

 去年までは、午後はジムでエアロビクスをしたりしてたんですけど、今回は午前、午後ともにグラウンドでやってます。

 
やることは同じなんですけど、グラウンドにずっといることで、ゆとりもできましたし、時間を有効に使えるようになりましたね。

 ひとつひとつのメニューを、時間を気にすることなく、じっくりできるから。濱は、バッティングのあとにティーをしたり、そういう予習、復習をする時間ができたよな。

 そうですね。

―最初に、一緒に自主トレをやろうと声をかけたのはどちらですか。

 一緒にやろうと言ったのは僕ですけど、施設を紹介してくれたのは濱ちゃんです。こういうグラウンドがありますよ、と。

―お互いをパートナーに選んだ理由は?

 数少ない、一緒に食事をする仲だったんで(笑)。

 ハハハ。数少ない、誘ってくださる仲だったんで(笑)。というのは冗談ですけど、それまで僕はずっと鳴尾浜で(自主トレを)やっていて、新しい所でやりたいなと思ってたときに、声をかけてもらったので。


―同期入団ですが、最初から仲が良かったのですか。

 1年目、2年目は、今岡さんはずっと1軍で、僕は2軍だったので、そんなに接する機会はなかったんですけどね。

 黒潮リーグとかキャンプに行って、話す機会が増えたような感じやな。


 そうですね。


―野球を離れたときの話題は?

 案外、野球の話をするな。

 しますね。

 初めは僕も意外やったんですけど、2人で食事をしてても、きょう、あの選手はどうやったなとか、野球の話になるんですよ。そのなかで、ああ、濱はこういうふうに考えてるんやな、と分かるようになってきて。そのうち、プライベートな部分で、人には言えないような突っ込んだ話もするようになりましたね。

 今岡さんには何でも相談してますね。ほんまに、ほかの人には言えないようなことも。

 気心知れてなかったら深い話はできないけど、この自主トレも4年目になるし、だんだんとね。これからは、野球の話で、もっとこういうふうにしたらええんちゃうかとか、そういう話をしていけたらなと思いますね。


―プロ入りから6年間、お互いを見てきて、変わったなと思う点はありますか。

 濱の場合は、周りの期待度が、1年1年、グ〜ンと上がるんですよ。僕らは少しずつなんですけど、濱ちゃんはそのステップがすごくデカい。1軍に上がった次の年は、もうクリーンアップを期待されてたり。その分、僕が経験したことのないようなプレッシャーがあるんじゃないかなと思うんですけど、まだまだ若いし、これからそういった期待にこたえてくれると思っています。

 僕は1軍に定着してまだ2年なんで、その前の今岡さんは分からないですけど、去年、あれだけの活躍をされて、野球に対する姿勢がすごく変わったと思いますね。ひたむきに野球をやっていたし、全力疾走もずっと続けてた。すごく見習うところがありましたね。


―お2人とも、去年は過去最高の数字を残されました。自分自身でどのように評価していますか?

 打席に関するすべての部門でこれまでを上回ったわけですから、素直にいいシーズンだったと認めてます。ですけど、チームが優勝を狙っていくなかで、さらにチームに貢献する、自分の存在価値を示すには、もっともっとやらなきゃいけないし、もっともっと成績を残さないといけないなと思っています。

 僕はケガさえなければ、ほんとにいいシーズンだったんですけど…。ケガ以外は上出来だったと思ってるんで。


―あのケガがなければ、規定打席にも到達していたでしょうし、目標の25本塁打も…。

 多分、打ててたと思いますね。それだけに悔いが残ります。あのケガがすべてでした。

 それまで頑張ってただけに、規定打席のことは、僕も気になっていたけどね。あれ、8月の頭だったよな。

 8月9日ですね。

 微妙なラインだったから、早く戻ってこられればと思っていたけど、惜しかった。

 ギリギリでしたからね。あと、ほんのちょっとでした。病院の先生とも相談しながらだったんですけど、ちょっと無理だろうということで、それなら、あわてずにと思って。それでも予定より早かったんですけどね。最後、どうしても復帰したかったんで。ちょうど今岡さんと同じ日だったんですよね。


 そう。僕は右ヒザの故障で抹消されてたけど、9月23日に一緒に復帰して。そのあと、2人とも頑張ることができて、いい終わり方ができたと思いますね。


 「継続」の難しさ

―去年の4位という結果は、どのように受け止めていますか。

 そりゃあ、悔しいですよ。いいスタートを切れて、ほんまに優勝できると思ってましたからね。ケガの話も出たけど、ああいうことがなければ、もっと上にいけてたよな。

 はい、あの雰囲気ならね。

 全然、違ったもんな。


―具体的に言うと?

 具体的に…どうやろ?

 表情が明るかったですよね。やってて楽しかったし。

 それを経験できたのは大きいよな。チームが強かったら、こんなええ思いできる、こんなええ雰囲気のなかで野球ができる…ダントツ最下位で試合するのとは、明らかに違ったし、びっくりするくらい、環境が変わった。

 僕はファームで優勝を経験してますけど、上の優勝争いは、全く違いますよね。2軍では、体がしびれてくるようなプレッシャーはないですけど、1軍は全身が震えるようなときもありましたから。

 意識するからな。下のほうの順位でやるのとは、ほんとに違った。それを経験しただけに、4位は悔しい。最下位じゃなかったんだからいいじゃないかと言う人もいるかもしれないけど、やってる選手は優勝を目指してるわけだから、もっとできたんじゃないかと思って当然。

 最下位を脱出できてよかったという気持ちはないですよね。目標は優勝なんですから。

―「優勝」という言葉が何度も出るあたり、やはりチームは変わりましたよね。

 もちろんです。それに、変わった姿も見せたでしょう?前半、あれだけ勝って、7月まで首位争いをして。やればできるってことを見せないと、「優勝」とは言えないですから。あとは、それを1年間、維持、継続することが目標ですね。継続するってことはめちゃめちゃしんどいですけど。

―去年は継続できなかった?

 僕はしたつもりですよ。ただ、現実的な話、9月の時点では数字的に無理になってましたから、それは別ですけど。

 でも、今岡さんの言われる通りですよね。長いシーズン、いかに気持ちを保っていくか、継続していくか。

 それが1番、難しいよな。

 そうですね。

 周りの人は、1回負けだすと、やっぱりダメ虎や、とかすぐ言うでしょう?そういうマイナス志向の風潮が出てきたときに、強い気持ちを持ち続けるっていうのは、想像以上に大変なんですよ。

 それ、よく分かります。本当にそうですよね。

―去年は6月に8連敗がありました。あのときは、気持ちが切れそうになったことも?

 そういうところでは、監督をはじめ首脳陣の方が、ミーティングでハッパをかけてくれて、またレールに乗せてくれました。

 ミーティングの回数も増えましたよね。

 激しくもなったしな。ただ、レールから外れそうになったときに、パッと戻れる術を選手が分かっていれば、監督の仕事も減ると思うんですよね。1人や2人じゃダメだけど、みんなが、少々負けても大丈夫だと思えれば…。


―去年は、負けが込んだときに、選手会の決起集会がありました。ああいう場では、どのような話をするものなのですか。

 そんなに堅い話はしませんね。近くに座っている者同士、個々にはしてるんでしょうけど、全体としては、沈んでるムードを、お酒を飲んで和ませるのが目的ですから。

―盛り上げ役はだれですか。

 だれやろ?

 カツノリさんとかじゃないですか。

 そうか。カツノリさんとか、ムーアも明るいな。

 そうですね。外国人は盛り上げてくれますね。

―お2人は?

 チビチビやってますよ(笑)。

 隅っこのほうで(笑)。あんまり盛り上げ役にはならないですね。

―でも、これからは、リーダーになっていかないといけないんじゃないですか。

 それは、ユニフォームを着てるときに頑張ろうかと。人間、向き不向きがありますから。僕、しゃべりはダメやから…な?

 いやあ、どうでしょうねえ(笑)。

 なんで否定してくれへんの?

 最近、徐々に、盛り上げ役になってきてますよね。

 成長した?(笑)。

 僕も28歳くらいになったら頑張ります(笑)。

 今季の目標

―今季、チームの優勝に、どのように貢献したいと思っていますか。

 さっきも言いましたけど、「継続」ですよね。シーズン中は打てるときと打てないときが必ずありますけど、1年間コンスタントにやりたい。調子が悪くて結果が出ないときに、そういう練習をすればいいかとか、去年ある程度つかんだので、それを数字につなげたいと思います。成績がついてこないと、だれも評価してくれませんからね。個人の成績も意識してやっていきたいです。

 僕は、去年できなかった、規定打席をクリアしての3割というのを、今年は目標にしています。25本塁打も打ちたいですし。

―それに向けて、キャンプのテーマは?

 ケガをしないことが大前提ですけど、2月はより実戦を意識しながらになりますよね。試合が始まるまでの準備期間ですから、もちろん体力づくりも大切ですけど、4月の開幕に最高の状態に持っていけるように。

 僕の場合は、守備もバッティングも、すべてレベルアップしないとレギュラーを取れませんからね。金本さんも入って、外野の争いは本当に激しくなると思いますけど、そのなかで勝ち抜いて、何とかレギュラーを取りたいと思います。そのためのキャンプですね。あと、いまバッティングのスタンスを狭くすることに取り組んでるんですが、まだ感じがつかめなくて、いまのままシーズンに入るのは到底、無理なので、2月の前半で、どうするのか、結論を出したいと思います。


―今シーズン、ファンの方に見てほしいアピールポイントは何でしょうか。

 今岡さんは盗塁でしょう(笑)。

 ハハハ。数少ない盗塁?

 去年は何個ですか?

 ゼロ。

 意外ですよね。

 走ったのも3〜4回やけどね。ちょうどファウルになったときもあるし、1回はセーフをアウトって言われたし。いかんせん、サインが出ないからね(笑)。でも、せっかく濱ちゃんが言ってくれたから、それにしよう。数少ない盗塁を見に来てください!


―ファンへの公約ということで、盗塁数の目標を決めてくれませんか。

 う〜ん、難しいなあ。

 最高で何個ですか。

 6個かな。

 じゃあ、10個で。

 2ケタにしよう。今年は2ケタ走りますから、そのうちの1回を見に来てください!(笑)。濱ちゃんの提案を、ありがたくお受けします。

 じゃあ、僕はセーフティーで(笑)。

 ハハハ。

 去年、3回やって3回成功なんですけど…それじゃ、あかんですね。サヨナラヒットは、そういう場面で打順が回ってこないとダメだし…。

 お立ち台は?そこで、何か面白いフレーズを言うことを約束して、それを見に来てくださいっていうのがいいんちゃう?週ベを読んだ人が、「あ、言ってくれた」と思えるようなこと。

 何にしましょう?

 (しばし相談)

 「きょうは一杯やってください」は?

 分かりました。「きょうは美味しいお酒を飲んでください」にしましょう。今年、最初のお立ち台で言います!その場になったら、忘れそうですけど(苦笑)。


―最後に、お互いにエールを送っていただけますか。

 4番は任せた!

 じゃあ僕は、1番、核弾頭を任せました。

 お互いに頑張ろう。

 はいっ!
 
●今岡誠の年度別成績 ●濱中おさむの年度別打撃成績
球団 試合 打数 安打 HR 打点 四死 三振 盗塁 打率 球団 試合 打数 安打 HR 打点 四死 三振 盗塁 打率
97 阪神 98 252 63 2 20 14 48 1 .250 97 阪神 6 12 2 0 0 0 0 0 .167
98 133 471 138 7 44 22 54 6 .293 98 11 22 9 0 3 2 3 0 .409
99 128 457 115 6 39 34 55 4 .252 99 35 70 14 0 4 6 16 0 .200
00 40 113 24 1 2 7 19 0 .212 00 9 15 4 0 0 3 6 0 .267
01 123 400 107 4 40 32 60 3 .268 01 110 411 108 13 53 55 65 3 .263
02 122 505 160 15 56 31 62 0 .317 02 102 366 110 18 51 34 58 8 .301
通算6年 644 2198 607 35 201 140 298 14 .276 通算6年 273 896 247 31 111 100 148 11 .276
週刊ベースボールマガジン 2003/02/03号